大杉栄、伊藤野枝訳
科学の不思議
『猫を嚇すのはよして、今度は他の方法で電気を起して見よう。
『普通のいゝ紙を縦にたゝんで、その両方の端を持つて、ストオヴか、火の前に持つて行つて焦げさうになるまで熱くする。うんと熱くすればよけいに電気を発する。最後に、その紙の両端だけを持つて、その熱い紙を出来るだけ早く、膝の上に拡げておき毛織の布に手早くこすりつける。その膝の上の布は前に暖めて用意をしておくのだ。もしズボンが毛織ならばその上にこすりつけていゝ。その摩擦は、紙の縦目にそふて激しく磨らなくてはいけない。少しこすつたら、その紙に何んにも触れさせないやうに、よく注意をして、一方の手で持ちあげる。もし紙が何かに触れゝば電気は逃げてしまふのだ。それから早速に、あいてゐるもう一方の手の指の関節か、或はもつといゝのは鍵の端を持つて行つて、その細長い紙の真中に近づける。すると、一つの火花が紙から鍵へ発して軽い音を立てゝるだらう。その火花をもう一つ出さうとするには、もう一度おなじ事を繰り返さなければならない。何故かと云ふと、指や鍵を紙に近づけた時に、紙に起きた電気はみんな失くなつてしまうからだ。
『また火花を出す代りに、その電気の起きてゐる紙を、紙や藁や或は羽毛のきれつぱしの上の方に平らにして見てもいゝ。それ等の軽い物体は、代りばんこに引きつけられたり撥返(はねかえ)されたりする。電気はその細長い電気を起してゐる紙から物体へと急速に行つたり来たりするのだ。』
ポオル叔父さんはなを附加へてお手本を見せる為めに、一枚の紙を取つて、うんと手ごたへのあるやうに、細長くたゝみました。そしてそれを暖めて、自分の膝の上にこすりつけました。そして最後にその指の関節をそれに近づけて火花を飛ばせました。子供達は、その紙からパチツと音を立てゝ飛び出す火花にすつかり驚いてしまひました。猫の背中の光の泡粒は無数でした。けれども、もつと弱くて光つてゐました。
その晩アムブロアジヌお婆あさんは、ジユウルを寝床に連れてゆくのに大骨折りだつたといふ事です。それはジユウルが、そのやり方を覚えましたので、夢中になつて疲れるのも知らずに紙をあぶつたりこすつたりしてゐたからです。たうとうその実験を止めさすのに、叔父さんの仲裁が必要になつた程でした。
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